キャラ紹介 テディ
とりあえず『続きを読む』機能について覚えたので、
ここからのキャラ紹介と連載は、この機能をもって書いていこうと思う。
いやいや、どうやって使うものかとずっと思ってたけど……ね。
ここからのキャラ紹介と連載は、この機能をもって書いていこうと思う。
いやいや、どうやって使うものかとずっと思ってたけど……ね。
第七章−第一幕− 地下特訓
勇者軍主力部隊はアイリーン・マフィアの好意で、
地下施設による特訓を開始するべく、地下通路へと入った。
「オリハルコニウムセラミカルチタンゲート、開放!」
ケヴィンの声と共に地下通路へのゲートが開放されると、暗く、狭い通路が出てきた。
「あの……すみません、いいですか?」
といきなり挙手したのはライナスであった。ケヴィンが怪訝な顔をする。
「どうした、ライナス?」
「もうちょっと広くなりませんかね、これ。
ちょっと事情があって、狭い場所は苦手なもので……」
「それならこうしよう。隔壁オープン!」
すると、壁という壁の大半以上が地下へと沈んでいく。
どうやら制御できるように作られているらしい。
「助かります。お恥ずかしい話ですが、小さい頃、悪戯が過ぎて
よく母に閉じ込められてからというものの、どうも狭い場所は苦手で」
と、ライナスは苦笑する。
「母親、か。やはりロゼッタなのか?」
「はい?」
「いや、いい。聞かなかった事にしてくれ」
「はあ……母がロゼッタなのは間違いないからいいんですけど」
ケヴィンが懸念したのは、ジーニアス家の血統を継いだこの男が、
あるいは祖父ユリシーズ=ジーニアスのクローンではないか、という点だった。
母であるはずのロゼッタはあまり恋愛に興味がありそうでもなかったし、
そもそも消息を基本的に絶っていたので、いまいち真実が見えない。
勇者軍軍規によれば、子孫が残せない場合は、
クローン培養もやむなし、というのが勇者軍の基本方針故に、
ケヴィンが疑うのも無理からぬ話ではあった。
自分が妻と結ばれ、メイベルを儲けたのも、すべからく僥倖である。
その事を嫌という程ケヴィンは理解しているのだ。
現総帥エリシャ=ストレンジャーの実弟であるが故に。
「さあ、特訓を開始しようぜ、何する!?」
やたら張り切っているコンラッドだったが、リゼルは冷静だった。
「では、午前中は各自、新必殺技……というよりは奥技の訓練をしましょう。
で、午後からは基本的に乱戦による訓練が必要かと思います」
(乱戦の訓練?)
ジルベルトがまったく理解できておらず、大福を抱きながら首をかしげる。
その姿に無駄に愛嬌があったりするが、緊張感はいまいち無い。
「はい、隊長。スプレッダー幼生体や成体はともかく、
僕の乏しい経験から言うと、ウィルスユーザーズとの戦いでは
大半以上が乱戦になると思います。そこで多くの敵に包囲されても
適切に対処出来るように、乱戦の訓練をするんです」
「おー」
と、ソニアも拍手する。
「ですから具体的にアイディアは二つあります。文字通りバトルロイヤル的に
味方も敵も識別を無くしてから模擬戦闘を行う、もしくは……」
「チームを二つに分けて対抗戦、というところか」
「ジークさん、ご名答です。これも実戦的と言えるでしょう。
判断は……そうですね、レイリアさんに委ねてみましょう」
「あたし?」
突然名指しされてレイリアがびっくりする。しかし彼女は冷静だった。
「うーん、そうだね。あたしだったら前者かな。乱戦っぽいし」
しかしそれに異を挟んだのはエイリアだった。小芝居も忘れない。
「いやちょっと待ってよ。それは確かに正論かもしれないけれど、
勇者軍はあくまで集団戦闘を是とする団体なのよ?
乱戦と言っても、そこまで統制を失うのは危険だわ」
「何をー! 妹のくせに生意気ー!!」
「姉さんこそ私情で軍の行動を決めないで!」
きー、きーと喚きながら喧嘩が始まると、リゼルは遠くで笑っていた。
「あはは、収拾が付かなくなっちゃいましたね」
「笑ってる場合かッ!?」
即座にテディのツッコミが入る。
「というわけなので予想通り収拾が付かなそうなので、メイベルさん、どうぞ」
と、リゼルの無茶振りがメイベルに飛ぶ。
「わ……たしですか?」
コンラッドの陰に隠れてしまったメイベルではあったが、一応考えてはいたのか
一分後、きっちりと答えを出してきた。
「私はチームを分ける方がいい……と……思います……」
それだけ言うと、今度は恥ずかしそうにシエルの陰に隠れた。
「……だそうだけど?」
と半眼でシエルが言ったので、レイリアとエイリアの喧嘩は止まった。
「仕方ないね。どうせ隊長もそうなんでしょ?」
「さもありなん、だな」
エイリアは早速化けの皮が剥がれているが、
ジルベルトは特に気にする事もなく、頷いた。
それから五日間もの間、猛訓練は続いた。
午前中には予定通り奥技の訓練、午後はチームを分けての訓練。
ただしバトルロイヤル案との折衷のため、チームは三つとなった。
チーム・A(アルファ)にジルベルト、ユイナ姫、レイリア、ソニア。
チーム・B(ブラボー)にライナス、エイリア、コンラッド、メイベル。
チーム・C(チャーリー)にテディ、リゼル、シエル、ジーク。
午前中の特訓が終わった後、昼食の席にて、ジルベルトは
自らの手製によるお弁当を広げた。
(ソニアさん、食べて)
と、ソニアに差し出してやる。
「えっ、いいの!? 私に?」
(前、食べたいって言ったの)
その中身は、ソニアの大好きなハンバーグだった。
「嬉しい……ありがとう!」
ぱくり、と一口。
母親の味のようだ。見事と認めるほかない。
ソニア自身も料理はそれなりにこなすが、この味は格別だ。
「おいしい……!」
それを聞いたときのジルベルトの笑顔の何と輝かしい事か。
しかしユイナ姫も黙ってはいなかった。彼女も料理は比較的上手な方だ。
アーム王家には珍しいことではあるが。
「ジル君、お弁当作ったの、食べて」
おいしそうな匂いにつられて、ジルベルトはそちらへと向かう。
色香より食欲。実にシンプルな男であった。
(おいしぃー)
「うふふ」
それをにこやかに眺めるユイナ姫だったが、
ソニアは内心面白くなかった。大事な人を取られた気分だ。
「やるわね、ユイナ姫……負けないわよ……あ、やっぱおいしい」
とジルベルト作の弁当をパクつきながら呟くソニアであった。
午後からの特訓は苛烈を極めた。
乱戦では騎兵の能力がフル活用される。ユイナ姫が大暴れし、
チームBは非常に大混乱した。
かと思えばリゼルの広範囲魔法が場を撹乱し、
ライナスの駿足が更に訓練場を混乱させる。
メインメンバーが一人しかおらず、しかも鈍足メンバーが多い
チームCは非常にいい面の皮という他ない。
しかしチームCには回復要員のシエルがいる。
彼女がやたらと回復呪文を乱発するせいで、
タフさ加減では随一のものがあるチームCは、次第に
体力面で劣るチームAを圧倒する一面もあった。
しかし、一番の被害者は間違いなくメイベルだろう。
図抜けた鈍重さのせいでよく袋叩きに遭うわ、
状況によっては味方に盾扱いされているのだから。
「でぇいッ!」
銃を乱射するレイリア(もちろん訓練弾)の銃弾が、ライナスを襲う。
ライナスはメイベルの陰に隠れて、彼女を盾代わりに使う。
「甘い! 秘技、メイベルシールド!」
「ひぇッ!?」
全弾浴びるが、メイベルの真紅のアーマーはほとんど無傷だ。
ライナスは怯えまくりのメイベルからすぐに離れるが、
更に鈍重なメイベルへとソニア、ジークがそれぞれ襲い掛かる。
ごん! がきん! ばこん! どがっ!
鉄拳と斧の乱舞がメイベルへとことごとく叩き込まれる。
メイベルは中でふるふる震えているが、まったく効いていない。
しまいには殴り疲れて二人とも肩で息をするほどだ。
呼吸を整えた二人は、メイベルを無視してお互いを攻撃し始めた。
だがメイベルに安息の暇は無かった。続けてユイナ姫と
テディによる乱闘に巻き込まれたのだ。
槍が、槌がメイベルへと叩き込まれる。凄まじい技の冴えだった。
それがメイベルの恐怖心を一層刺激し、そして彼女は――キレた。
「ふぇぇん!」
泣きながらブースターを一閃、続けてアフターバーナーまで吹かして再加速。
がごっ!! がらがらがらがらずざざーッ!!
「ふがッ!」
(メイベル!?)
「きゃあぁッ!!」
自重の五倍は軽くあるアーマーによる超高速突撃は、
予想だにしないからの攻撃(?)に慌てるしかなかった
コンラッド(味方)、ジルベルト(敵だけど親類)、シエル(敵だけど親類)を、
まとめて薙ぎ倒し、大きく転倒する結果となったのだった。
それを呆然と見ていた監督役のグスタフだったが、
なんとなく呟いてみた。
「ふむ。アフターバーナーを使いこなしたか。
少々大胆に過ぎるが、奥技と捉えられなくもないな」
「ふぇぇん……えぇぇん……」
と。その一言で、奥技体得者一番乗りは、意外にもメイベルとなった。
それは特注アーマーの性能を最大限に引き出したのに等しかったのだ。
まあ当の本人は恐怖に耐え切れず完全に泣いてはいたが。
あまりにもグダグダになったので、その日の訓練はそこまでとなった。
ズタボロに傷付いたジルベルト、シエル、コンラッドを残して。
その後、更に特訓は十日間にも及び、合計にして半月近くを特訓に費やす
勇者軍主力部隊。その間に主だったスプレッダー幼生体は
各国連合軍、そしてウィルスユーザーズの手によって
あらかた駆逐されつつあったが、本人達はそれを知る由も無かった。
時は大きく動き、十日後から再び始まろうとしていた――
<第七章−第二幕− へと続く>
地下施設による特訓を開始するべく、地下通路へと入った。
「オリハルコニウムセラミカルチタンゲート、開放!」
ケヴィンの声と共に地下通路へのゲートが開放されると、暗く、狭い通路が出てきた。
「あの……すみません、いいですか?」
といきなり挙手したのはライナスであった。ケヴィンが怪訝な顔をする。
「どうした、ライナス?」
「もうちょっと広くなりませんかね、これ。
ちょっと事情があって、狭い場所は苦手なもので……」
「それならこうしよう。隔壁オープン!」
すると、壁という壁の大半以上が地下へと沈んでいく。
どうやら制御できるように作られているらしい。
「助かります。お恥ずかしい話ですが、小さい頃、悪戯が過ぎて
よく母に閉じ込められてからというものの、どうも狭い場所は苦手で」
と、ライナスは苦笑する。
「母親、か。やはりロゼッタなのか?」
「はい?」
「いや、いい。聞かなかった事にしてくれ」
「はあ……母がロゼッタなのは間違いないからいいんですけど」
ケヴィンが懸念したのは、ジーニアス家の血統を継いだこの男が、
あるいは祖父ユリシーズ=ジーニアスのクローンではないか、という点だった。
母であるはずのロゼッタはあまり恋愛に興味がありそうでもなかったし、
そもそも消息を基本的に絶っていたので、いまいち真実が見えない。
勇者軍軍規によれば、子孫が残せない場合は、
クローン培養もやむなし、というのが勇者軍の基本方針故に、
ケヴィンが疑うのも無理からぬ話ではあった。
自分が妻と結ばれ、メイベルを儲けたのも、すべからく僥倖である。
その事を嫌という程ケヴィンは理解しているのだ。
現総帥エリシャ=ストレンジャーの実弟であるが故に。
「さあ、特訓を開始しようぜ、何する!?」
やたら張り切っているコンラッドだったが、リゼルは冷静だった。
「では、午前中は各自、新必殺技……というよりは奥技の訓練をしましょう。
で、午後からは基本的に乱戦による訓練が必要かと思います」
(乱戦の訓練?)
ジルベルトがまったく理解できておらず、大福を抱きながら首をかしげる。
その姿に無駄に愛嬌があったりするが、緊張感はいまいち無い。
「はい、隊長。スプレッダー幼生体や成体はともかく、
僕の乏しい経験から言うと、ウィルスユーザーズとの戦いでは
大半以上が乱戦になると思います。そこで多くの敵に包囲されても
適切に対処出来るように、乱戦の訓練をするんです」
「おー」
と、ソニアも拍手する。
「ですから具体的にアイディアは二つあります。文字通りバトルロイヤル的に
味方も敵も識別を無くしてから模擬戦闘を行う、もしくは……」
「チームを二つに分けて対抗戦、というところか」
「ジークさん、ご名答です。これも実戦的と言えるでしょう。
判断は……そうですね、レイリアさんに委ねてみましょう」
「あたし?」
突然名指しされてレイリアがびっくりする。しかし彼女は冷静だった。
「うーん、そうだね。あたしだったら前者かな。乱戦っぽいし」
しかしそれに異を挟んだのはエイリアだった。小芝居も忘れない。
「いやちょっと待ってよ。それは確かに正論かもしれないけれど、
勇者軍はあくまで集団戦闘を是とする団体なのよ?
乱戦と言っても、そこまで統制を失うのは危険だわ」
「何をー! 妹のくせに生意気ー!!」
「姉さんこそ私情で軍の行動を決めないで!」
きー、きーと喚きながら喧嘩が始まると、リゼルは遠くで笑っていた。
「あはは、収拾が付かなくなっちゃいましたね」
「笑ってる場合かッ!?」
即座にテディのツッコミが入る。
「というわけなので予想通り収拾が付かなそうなので、メイベルさん、どうぞ」
と、リゼルの無茶振りがメイベルに飛ぶ。
「わ……たしですか?」
コンラッドの陰に隠れてしまったメイベルではあったが、一応考えてはいたのか
一分後、きっちりと答えを出してきた。
「私はチームを分ける方がいい……と……思います……」
それだけ言うと、今度は恥ずかしそうにシエルの陰に隠れた。
「……だそうだけど?」
と半眼でシエルが言ったので、レイリアとエイリアの喧嘩は止まった。
「仕方ないね。どうせ隊長もそうなんでしょ?」
「さもありなん、だな」
エイリアは早速化けの皮が剥がれているが、
ジルベルトは特に気にする事もなく、頷いた。
それから五日間もの間、猛訓練は続いた。
午前中には予定通り奥技の訓練、午後はチームを分けての訓練。
ただしバトルロイヤル案との折衷のため、チームは三つとなった。
チーム・A(アルファ)にジルベルト、ユイナ姫、レイリア、ソニア。
チーム・B(ブラボー)にライナス、エイリア、コンラッド、メイベル。
チーム・C(チャーリー)にテディ、リゼル、シエル、ジーク。
午前中の特訓が終わった後、昼食の席にて、ジルベルトは
自らの手製によるお弁当を広げた。
(ソニアさん、食べて)
と、ソニアに差し出してやる。
「えっ、いいの!? 私に?」
(前、食べたいって言ったの)
その中身は、ソニアの大好きなハンバーグだった。
「嬉しい……ありがとう!」
ぱくり、と一口。
母親の味のようだ。見事と認めるほかない。
ソニア自身も料理はそれなりにこなすが、この味は格別だ。
「おいしい……!」
それを聞いたときのジルベルトの笑顔の何と輝かしい事か。
しかしユイナ姫も黙ってはいなかった。彼女も料理は比較的上手な方だ。
アーム王家には珍しいことではあるが。
「ジル君、お弁当作ったの、食べて」
おいしそうな匂いにつられて、ジルベルトはそちらへと向かう。
色香より食欲。実にシンプルな男であった。
(おいしぃー)
「うふふ」
それをにこやかに眺めるユイナ姫だったが、
ソニアは内心面白くなかった。大事な人を取られた気分だ。
「やるわね、ユイナ姫……負けないわよ……あ、やっぱおいしい」
とジルベルト作の弁当をパクつきながら呟くソニアであった。
午後からの特訓は苛烈を極めた。
乱戦では騎兵の能力がフル活用される。ユイナ姫が大暴れし、
チームBは非常に大混乱した。
かと思えばリゼルの広範囲魔法が場を撹乱し、
ライナスの駿足が更に訓練場を混乱させる。
メインメンバーが一人しかおらず、しかも鈍足メンバーが多い
チームCは非常にいい面の皮という他ない。
しかしチームCには回復要員のシエルがいる。
彼女がやたらと回復呪文を乱発するせいで、
タフさ加減では随一のものがあるチームCは、次第に
体力面で劣るチームAを圧倒する一面もあった。
しかし、一番の被害者は間違いなくメイベルだろう。
図抜けた鈍重さのせいでよく袋叩きに遭うわ、
状況によっては味方に盾扱いされているのだから。
「でぇいッ!」
銃を乱射するレイリア(もちろん訓練弾)の銃弾が、ライナスを襲う。
ライナスはメイベルの陰に隠れて、彼女を盾代わりに使う。
「甘い! 秘技、メイベルシールド!」
「ひぇッ!?」
全弾浴びるが、メイベルの真紅のアーマーはほとんど無傷だ。
ライナスは怯えまくりのメイベルからすぐに離れるが、
更に鈍重なメイベルへとソニア、ジークがそれぞれ襲い掛かる。
ごん! がきん! ばこん! どがっ!
鉄拳と斧の乱舞がメイベルへとことごとく叩き込まれる。
メイベルは中でふるふる震えているが、まったく効いていない。
しまいには殴り疲れて二人とも肩で息をするほどだ。
呼吸を整えた二人は、メイベルを無視してお互いを攻撃し始めた。
だがメイベルに安息の暇は無かった。続けてユイナ姫と
テディによる乱闘に巻き込まれたのだ。
槍が、槌がメイベルへと叩き込まれる。凄まじい技の冴えだった。
それがメイベルの恐怖心を一層刺激し、そして彼女は――キレた。
「ふぇぇん!」
泣きながらブースターを一閃、続けてアフターバーナーまで吹かして再加速。
がごっ!! がらがらがらがらずざざーッ!!
「ふがッ!」
(メイベル!?)
「きゃあぁッ!!」
自重の五倍は軽くあるアーマーによる超高速突撃は、
予想だにしないからの攻撃(?)に慌てるしかなかった
コンラッド(味方)、ジルベルト(敵だけど親類)、シエル(敵だけど親類)を、
まとめて薙ぎ倒し、大きく転倒する結果となったのだった。
それを呆然と見ていた監督役のグスタフだったが、
なんとなく呟いてみた。
「ふむ。アフターバーナーを使いこなしたか。
少々大胆に過ぎるが、奥技と捉えられなくもないな」
「ふぇぇん……えぇぇん……」
と。その一言で、奥技体得者一番乗りは、意外にもメイベルとなった。
それは特注アーマーの性能を最大限に引き出したのに等しかったのだ。
まあ当の本人は恐怖に耐え切れず完全に泣いてはいたが。
あまりにもグダグダになったので、その日の訓練はそこまでとなった。
ズタボロに傷付いたジルベルト、シエル、コンラッドを残して。
その後、更に特訓は十日間にも及び、合計にして半月近くを特訓に費やす
勇者軍主力部隊。その間に主だったスプレッダー幼生体は
各国連合軍、そしてウィルスユーザーズの手によって
あらかた駆逐されつつあったが、本人達はそれを知る由も無かった。
時は大きく動き、十日後から再び始まろうとしていた――
<第七章−第二幕− へと続く>
第七章−第一幕− 真紅の雌鹿
ウィルスユーザーズ研究施設内での戦闘を終えた
勇者軍主力部隊は、ほどなくアイリーン・マフィア本部基地内へと到着した。
「いらっしゃい、坊ちゃん、お嬢! お久しぶりで!」
マフィアの部下達から物凄い歓迎ぶりである。
そもそもそれも納得できる話であり、ストレンジャー家のジルベルトの母親、
エリシャ=ストレンジャーとアイリーン・マフィア筆頭の
ケヴィン=アイリーンは実の姉弟の関係にある。
いわば最も近しい親戚筋なのだから当然と言えば当然であった。
(おひさしぶりー)
「あと『お嬢』はやめてってば。こっ恥ずかしいったらないわよ」
ジルベルトはにこやかに、シエルは不満げに玄関からあがりこむ。
次いで他のメンバーが足を踏み入れた。勝手知ったる何とやら。
マフィアの部下達もジルベルトの無口は承知の上なのであった。
何年か前に足を踏み入れた時と何ひとつ変わっていない様子に、
ジルベルトはホッとするのだった。広いのも相変わらずだ。
とことこと歩いていると、ライナスが何かを察知した。
「……?」
「どうしたの、ライナスさん?」
シエルが振り向いた事で全員が足を止めた。
「マフィアの部下の人達とも違う気配がする。こそこそ隠れてるな。
ひょっとしたら敵に潜入か何かされてるかもしれない。警戒しないで」
とのライナスの言葉に、全員が臨戦態勢に入る。
しかし、ライナスが感じていた気配はすぐに消えた。
「……気のせい、なのかな? いや、違う、こっちか!?」
ライナスがまた別の方向を振り向く。もちろん他の者も振り向く。
しかし全員が振り向く頃には、また気配が消える。
「俺に正確な位置を悟らせないとは……凄いな」
素直にライナスが感嘆の言葉を呟くが、コンラッドは苛立った。
「誉めてる場合か、おい! お前等の叔父貴とかメイベルがヤバいだろ!?
いいからとっとと言って防御を固めといた方がいいんじゃねぇか!?」
「コンラッドの言う通りよ。もたついてたら危ないわ」
ソニアまで賛同したので、とりあえず一同は筆頭である
ケヴィン=アイリーンの執務室へと向かった。
「叔父様! 曾祖父様も!!」
シエルがやや乱暴にドアを開けると、そこには風格のある
中年に届きそうで届かない年齢の茶髪の男性が座っていた。
その傍らには白髪混じりの老人もいる。
前筆頭、グスタフ=アイリーンであろう。老いによる衰えは見えるが、
元気に手を振り、健在ぶりをアピールしてみせた。
「ジルベルトにシエル。元気そうじゃないか……む?
レイリア、エイリア両中尉にコンラッドも出てくるとはな」
ケヴィンは冷静に驚いてみせる。
(おひさしぶりですー)
とことこ近寄って、のんびりと抱擁など交わすジルベルトに、
ケヴィンもグスタフも苦笑するのだった。
「ふふ……その気性も相変わらずか、エリシャにそっくりだな」
「まったくだ。曾孫ながら可愛らしく育ったものだ」
のんきに談笑する二人をシエルが叱りつける。
「じゃなくて! 侵入者がいるかもしれないんですって!
早く防御を固めないと危ないじゃないの!!」
「それは本当か、シエル?」
ケヴィンの目つきが変わった。
「ええ、ライナスさん……ジーニアス家の勘でも捉えきれないわ」
「アイリーンのおやっさん! メイベルはいねぇのか!?」
コンラッドも血相を変えて詰め寄る。
「メイベルなら発注した特注の防具を取りに出かけているから大丈夫。
帰りが遅いのは気になるが、むしろこの場合は安全だろう」
と、ケヴィン。
「そうスか……」
と、コンラッドも一安心である。しかし防衛を緩めていい言い訳にはならない。
各自が臨戦態勢のまま、部屋で待機していた。
その時である。
ごぅッ!!
何か赤い塊のようなものがドアを開けたと思ったら、
物凄いスピードで突撃してきたのだ。
「うおッ!?」
ごんっ、ばきゃっ!!
それはコンラッドめがけて直進したが、コンラッドが何とか回避すると、
傍にあったテーブル、そしてその後方の壁を派手に砕いて停止した。
派手に転倒したようだが、ようやくそこで正体が分かった。
アーマーナイトである。鎧の色が真紅なのだ。
しかし、あまり体格に恵まれていないのか、それほどの迫力は無い。
それでも器用に謎のアーマーナイトは起き上がる。
第二撃が来るのではないか、と警戒するコンラッド、並びに
勇者軍メンバー達を差し置いて、真紅のアーマーナイトは何故か
こそこそと影に隠れ出した。情けないこと甚だしい。
「こらこらッ! 好き放題突撃しておいてそれはねぇだろ!?」
血の気の多いコンラッドが叫びながら、次いでテディ、ジークらが追撃に入る。
しかし別の入口からいつの間にかアーマーナイトは入ってきて――
ごぅッ!
どうやらブースターでも積んでいるのか、また突撃してきた。
今度のターゲットはライナスである。今度は手に鎌まで持っている。
「甘い!」
ライナスはひらりとかわし、また物を破壊して転倒するアーマーナイト。
そして再びこそこそと隠れて気配を消す。
「器用な人だなぁ……」
流石に呆然としながらもリゼルが呆れ果てる。
しかしジルベルトは別の疑問を抱いていた。
殺気が無い。テレパスから怯えの色しか読み取れない。
そもそも、持っている武器自体、殺傷能力が無いナマクラなのだ。
それに、ケヴィン、グスタフ両名がずっと黙っているのも気になる。
それはシエルも同様で、不可解といった表情をしていた。
結局追いつけなかったコンラッド達が戻ってくる頃に、
今度は壁を破壊し、そこから真紅のアーマーナイトが飛び出て来る。
きしゅッ!
しかし、今度はジルベルトがリールを投げ放ち、
アーマーナイトの動きを止めた。しかしアーマーのブースターの出力が
予想以上に大きく、止められないかもしれない。
(コンラッドさん、手伝って)
「コンラッド、お兄ちゃんを手伝ってちょうだい! 止めるわよ!」
シエルの翻訳がすかさず入る。
「リールだな! 分かったぜ!」
コンラッドもリールを投げてアーマーナイトを拘束した。
「勝負あったな!」
喜色満面で宣言するコンラッドを尻目に、ケヴィンがようやく席を立つ。
あっさりとアーマーナイトに近寄って、そのフルフェイスの兜を外した。
「どうだった? 久しぶりに見た彼等は?」
と、優しく呼びかけてやるケヴィン、真紅のアーマーナイト――の少女は
「はい、お父様……流石はジルお義兄様達……です」
非常に小さな可愛らしい声で答える。
「メイベル!!?」
コンラッドが代わりに驚愕した。まさか幼馴染みに襲撃されるとは
思っていなかったのだろう。しかも父親も曾祖父もグルときたものである。
「コンラッド君……ごめんなさい……私の実力テストを……したの……」
メイベル=アイリーンはそう言ってのけた。
「やぁっぱりね」
と、納得顔をするシエルだった。
「お久しぶりね、メイベル。こそこそ隠れるのが得意技のあなたが
アーマーナイトになったってのはすっごいびっくりしたけど、ね」
「シエルお義姉様も……ジルお義兄様も……お久しぶりです……」
(おひさしぶりー)
ジルベルトが頭を撫でてやると、なすがままに撫でられる。
「うわー、小っちゃーい、かわいー」
と、ソニアが近寄ってきた。よく見ると身長もジルベルトより
数センチ高い程度で、真紅のアーマーがひどく小ぢんまりと見えた。
遠目に見ればただの赤い箱か何かに見えたかもしれない。
「と、まあそんなわけで試すような真似をして失礼した。
ウチの娘がスプレッダーの事、そして先のカルナード港での戦いを
聞いて、いてもたってもいられなくなったようでな」
と、ケヴィンが謝罪する。メイベルもアーマーを脱いで
普段着になった。ただし曽祖父グスタフの影に隠れている、が。
「ほら、メイベル。自己紹介したまえ」
と、グスタフが前に押し出す。
「メイベル=アイリーン……です。はじめ……まして」
そこまで言うとまた曽祖父の影に隠れた。どうやら人見知り気味らしい。
「お恥ずかしい。過保護に育ってしまったみたいでね」
と、ケヴィンも苦笑いする。
「あの通り隠れるのが上手になってしまった。せめて安全に
戦えるようにと、アーマーナイト志望にさせてみたんだが、
真紅に塗ってしまうせいか、余計に目立つ。
そのせいで付いた渾名が『真紅の雌鹿』だとさ」
「雌鹿?」
「鹿は臆病で隠れるのが得意な生き物だからな」
「なるほど……」
と、妙に納得してしまうテディであった。
「まあメイベルのこういうのもいつもの事だけど、今回は驚いたわね」
と、皮肉たっぷりにシエル。メイベルは本当に申し訳無さそうに隠れる。
(まあまあ)
と、ジルベルトがフォローに入る。
「それで、叔父様。物は相談なんですけど」
「どうした、シエル?」
「メイベルもろとも、全員、再訓練が必要だと思うんです。
この戦い、何度か戦闘上での敗北を喫しています。
このままじゃいけないと思うんですけど?」
「ふむ……どうする、おじい?」
「そうだな」
と、ケヴィン、グスタフ両名が二人で会議を始めた。端末をいじっているらしい。
しばらくすると、話がまとまったようである。
「そうだな。ジルベルト達がそうだというのならそうなんだろう。
幸いにも、惑星アースに残るスプレッダー幼生体の数も
残りわずかとなってきている。各国の一致協力によってな。
少しぐらいは訓練に時間を費やしても問題無いと判断する。
気の済むまで新造した地下訓練施設を使うといいだろう」
と、ケヴィンが言ったので、一同は安心した。
これで妨害の入る事なく特訓に専念出来る。
「ところで、件のウィルスユーザーズの研究施設を一つ
潰してきたんですけど、その施設を解体してもらえませんか?」
と、ユイナ姫が申し出る。危うく忘れそうではあったがこれも大事だ。
「分かった。工兵を回して作業を進めておこう」
ケヴィンも快く請け負ってくれた。
「うむ、それでは特訓の開始だな。今日はゆっくり休むぞ!」
「そーだねー」
ジークが発言し、レイリアが答えてその場が締まる。
その日の夜。
「コンラッド君……昼間の奇襲、怒ってる……?」
夜風に当たりに来たコンラッドの前に、メイベルがこっそりと現れた。
両者は幼馴染みなのだ。
「別に怒ってなんかいねぇよ。ちこっと驚いただけだ」
「よかった……」
ぼろぼろと涙を零すメイベル。
「うわ、泣くなよな! だから怒ってねぇって!」
「こんな勝手な事して、どうやって謝ろうかな……って……」
「謝る必要なんかねぇよ。お前は俺達の助けになろうとして
前線に出る覚悟までしてくれたんだろ? 礼を言わねぇとな」
と、メイベルの頭を撫でてやる。
「小さい頃はいっぱい守ってもらったね……
けど、今度は私がコンラッド君を守ってあげる。
自慢のアーマーなんだよ……あれ」
「そか。でも無茶すんなよ?」
「うん……」
ようやくメイベルが微笑んだ。
(世話の焼けるちびっ子だよな、まったく。隊長といいこいつといい)
と、コンラッドはただ一人苦笑するのであった。
一方のジルベルトはというと、訓練弾を持って、
一人で的を作ってから射撃訓練をこっそりとやっていた。
だんっ! だんっ! だんっ!
相変わらず一発としてまったく的に命中しない。
才能の無さを存分に発揮していると言ってもいいだろう。
そこに静かにエイリアがトイレに行くため通りがかった。
ジルベルトに関しては、遠目に見るだけではあるが。
「…………今度の隊長は随分と諦めが悪いな…………」
それだけ言うと、エイリアはトイレに向かって歩くのであった。
それはさておき、勇者軍主力部隊の特訓が、今アイリーン・マフィアにて
始まろうとしていたのであった――
勇者軍主力部隊は、ほどなくアイリーン・マフィア本部基地内へと到着した。
「いらっしゃい、坊ちゃん、お嬢! お久しぶりで!」
マフィアの部下達から物凄い歓迎ぶりである。
そもそもそれも納得できる話であり、ストレンジャー家のジルベルトの母親、
エリシャ=ストレンジャーとアイリーン・マフィア筆頭の
ケヴィン=アイリーンは実の姉弟の関係にある。
いわば最も近しい親戚筋なのだから当然と言えば当然であった。
(おひさしぶりー)
「あと『お嬢』はやめてってば。こっ恥ずかしいったらないわよ」
ジルベルトはにこやかに、シエルは不満げに玄関からあがりこむ。
次いで他のメンバーが足を踏み入れた。勝手知ったる何とやら。
マフィアの部下達もジルベルトの無口は承知の上なのであった。
何年か前に足を踏み入れた時と何ひとつ変わっていない様子に、
ジルベルトはホッとするのだった。広いのも相変わらずだ。
とことこと歩いていると、ライナスが何かを察知した。
「……?」
「どうしたの、ライナスさん?」
シエルが振り向いた事で全員が足を止めた。
「マフィアの部下の人達とも違う気配がする。こそこそ隠れてるな。
ひょっとしたら敵に潜入か何かされてるかもしれない。警戒しないで」
とのライナスの言葉に、全員が臨戦態勢に入る。
しかし、ライナスが感じていた気配はすぐに消えた。
「……気のせい、なのかな? いや、違う、こっちか!?」
ライナスがまた別の方向を振り向く。もちろん他の者も振り向く。
しかし全員が振り向く頃には、また気配が消える。
「俺に正確な位置を悟らせないとは……凄いな」
素直にライナスが感嘆の言葉を呟くが、コンラッドは苛立った。
「誉めてる場合か、おい! お前等の叔父貴とかメイベルがヤバいだろ!?
いいからとっとと言って防御を固めといた方がいいんじゃねぇか!?」
「コンラッドの言う通りよ。もたついてたら危ないわ」
ソニアまで賛同したので、とりあえず一同は筆頭である
ケヴィン=アイリーンの執務室へと向かった。
「叔父様! 曾祖父様も!!」
シエルがやや乱暴にドアを開けると、そこには風格のある
中年に届きそうで届かない年齢の茶髪の男性が座っていた。
その傍らには白髪混じりの老人もいる。
前筆頭、グスタフ=アイリーンであろう。老いによる衰えは見えるが、
元気に手を振り、健在ぶりをアピールしてみせた。
「ジルベルトにシエル。元気そうじゃないか……む?
レイリア、エイリア両中尉にコンラッドも出てくるとはな」
ケヴィンは冷静に驚いてみせる。
(おひさしぶりですー)
とことこ近寄って、のんびりと抱擁など交わすジルベルトに、
ケヴィンもグスタフも苦笑するのだった。
「ふふ……その気性も相変わらずか、エリシャにそっくりだな」
「まったくだ。曾孫ながら可愛らしく育ったものだ」
のんきに談笑する二人をシエルが叱りつける。
「じゃなくて! 侵入者がいるかもしれないんですって!
早く防御を固めないと危ないじゃないの!!」
「それは本当か、シエル?」
ケヴィンの目つきが変わった。
「ええ、ライナスさん……ジーニアス家の勘でも捉えきれないわ」
「アイリーンのおやっさん! メイベルはいねぇのか!?」
コンラッドも血相を変えて詰め寄る。
「メイベルなら発注した特注の防具を取りに出かけているから大丈夫。
帰りが遅いのは気になるが、むしろこの場合は安全だろう」
と、ケヴィン。
「そうスか……」
と、コンラッドも一安心である。しかし防衛を緩めていい言い訳にはならない。
各自が臨戦態勢のまま、部屋で待機していた。
その時である。
ごぅッ!!
何か赤い塊のようなものがドアを開けたと思ったら、
物凄いスピードで突撃してきたのだ。
「うおッ!?」
ごんっ、ばきゃっ!!
それはコンラッドめがけて直進したが、コンラッドが何とか回避すると、
傍にあったテーブル、そしてその後方の壁を派手に砕いて停止した。
派手に転倒したようだが、ようやくそこで正体が分かった。
アーマーナイトである。鎧の色が真紅なのだ。
しかし、あまり体格に恵まれていないのか、それほどの迫力は無い。
それでも器用に謎のアーマーナイトは起き上がる。
第二撃が来るのではないか、と警戒するコンラッド、並びに
勇者軍メンバー達を差し置いて、真紅のアーマーナイトは何故か
こそこそと影に隠れ出した。情けないこと甚だしい。
「こらこらッ! 好き放題突撃しておいてそれはねぇだろ!?」
血の気の多いコンラッドが叫びながら、次いでテディ、ジークらが追撃に入る。
しかし別の入口からいつの間にかアーマーナイトは入ってきて――
ごぅッ!
どうやらブースターでも積んでいるのか、また突撃してきた。
今度のターゲットはライナスである。今度は手に鎌まで持っている。
「甘い!」
ライナスはひらりとかわし、また物を破壊して転倒するアーマーナイト。
そして再びこそこそと隠れて気配を消す。
「器用な人だなぁ……」
流石に呆然としながらもリゼルが呆れ果てる。
しかしジルベルトは別の疑問を抱いていた。
殺気が無い。テレパスから怯えの色しか読み取れない。
そもそも、持っている武器自体、殺傷能力が無いナマクラなのだ。
それに、ケヴィン、グスタフ両名がずっと黙っているのも気になる。
それはシエルも同様で、不可解といった表情をしていた。
結局追いつけなかったコンラッド達が戻ってくる頃に、
今度は壁を破壊し、そこから真紅のアーマーナイトが飛び出て来る。
きしゅッ!
しかし、今度はジルベルトがリールを投げ放ち、
アーマーナイトの動きを止めた。しかしアーマーのブースターの出力が
予想以上に大きく、止められないかもしれない。
(コンラッドさん、手伝って)
「コンラッド、お兄ちゃんを手伝ってちょうだい! 止めるわよ!」
シエルの翻訳がすかさず入る。
「リールだな! 分かったぜ!」
コンラッドもリールを投げてアーマーナイトを拘束した。
「勝負あったな!」
喜色満面で宣言するコンラッドを尻目に、ケヴィンがようやく席を立つ。
あっさりとアーマーナイトに近寄って、そのフルフェイスの兜を外した。
「どうだった? 久しぶりに見た彼等は?」
と、優しく呼びかけてやるケヴィン、真紅のアーマーナイト――の少女は
「はい、お父様……流石はジルお義兄様達……です」
非常に小さな可愛らしい声で答える。
「メイベル!!?」
コンラッドが代わりに驚愕した。まさか幼馴染みに襲撃されるとは
思っていなかったのだろう。しかも父親も曾祖父もグルときたものである。
「コンラッド君……ごめんなさい……私の実力テストを……したの……」
メイベル=アイリーンはそう言ってのけた。
「やぁっぱりね」
と、納得顔をするシエルだった。
「お久しぶりね、メイベル。こそこそ隠れるのが得意技のあなたが
アーマーナイトになったってのはすっごいびっくりしたけど、ね」
「シエルお義姉様も……ジルお義兄様も……お久しぶりです……」
(おひさしぶりー)
ジルベルトが頭を撫でてやると、なすがままに撫でられる。
「うわー、小っちゃーい、かわいー」
と、ソニアが近寄ってきた。よく見ると身長もジルベルトより
数センチ高い程度で、真紅のアーマーがひどく小ぢんまりと見えた。
遠目に見ればただの赤い箱か何かに見えたかもしれない。
「と、まあそんなわけで試すような真似をして失礼した。
ウチの娘がスプレッダーの事、そして先のカルナード港での戦いを
聞いて、いてもたってもいられなくなったようでな」
と、ケヴィンが謝罪する。メイベルもアーマーを脱いで
普段着になった。ただし曽祖父グスタフの影に隠れている、が。
「ほら、メイベル。自己紹介したまえ」
と、グスタフが前に押し出す。
「メイベル=アイリーン……です。はじめ……まして」
そこまで言うとまた曽祖父の影に隠れた。どうやら人見知り気味らしい。
「お恥ずかしい。過保護に育ってしまったみたいでね」
と、ケヴィンも苦笑いする。
「あの通り隠れるのが上手になってしまった。せめて安全に
戦えるようにと、アーマーナイト志望にさせてみたんだが、
真紅に塗ってしまうせいか、余計に目立つ。
そのせいで付いた渾名が『真紅の雌鹿』だとさ」
「雌鹿?」
「鹿は臆病で隠れるのが得意な生き物だからな」
「なるほど……」
と、妙に納得してしまうテディであった。
「まあメイベルのこういうのもいつもの事だけど、今回は驚いたわね」
と、皮肉たっぷりにシエル。メイベルは本当に申し訳無さそうに隠れる。
(まあまあ)
と、ジルベルトがフォローに入る。
「それで、叔父様。物は相談なんですけど」
「どうした、シエル?」
「メイベルもろとも、全員、再訓練が必要だと思うんです。
この戦い、何度か戦闘上での敗北を喫しています。
このままじゃいけないと思うんですけど?」
「ふむ……どうする、おじい?」
「そうだな」
と、ケヴィン、グスタフ両名が二人で会議を始めた。端末をいじっているらしい。
しばらくすると、話がまとまったようである。
「そうだな。ジルベルト達がそうだというのならそうなんだろう。
幸いにも、惑星アースに残るスプレッダー幼生体の数も
残りわずかとなってきている。各国の一致協力によってな。
少しぐらいは訓練に時間を費やしても問題無いと判断する。
気の済むまで新造した地下訓練施設を使うといいだろう」
と、ケヴィンが言ったので、一同は安心した。
これで妨害の入る事なく特訓に専念出来る。
「ところで、件のウィルスユーザーズの研究施設を一つ
潰してきたんですけど、その施設を解体してもらえませんか?」
と、ユイナ姫が申し出る。危うく忘れそうではあったがこれも大事だ。
「分かった。工兵を回して作業を進めておこう」
ケヴィンも快く請け負ってくれた。
「うむ、それでは特訓の開始だな。今日はゆっくり休むぞ!」
「そーだねー」
ジークが発言し、レイリアが答えてその場が締まる。
その日の夜。
「コンラッド君……昼間の奇襲、怒ってる……?」
夜風に当たりに来たコンラッドの前に、メイベルがこっそりと現れた。
両者は幼馴染みなのだ。
「別に怒ってなんかいねぇよ。ちこっと驚いただけだ」
「よかった……」
ぼろぼろと涙を零すメイベル。
「うわ、泣くなよな! だから怒ってねぇって!」
「こんな勝手な事して、どうやって謝ろうかな……って……」
「謝る必要なんかねぇよ。お前は俺達の助けになろうとして
前線に出る覚悟までしてくれたんだろ? 礼を言わねぇとな」
と、メイベルの頭を撫でてやる。
「小さい頃はいっぱい守ってもらったね……
けど、今度は私がコンラッド君を守ってあげる。
自慢のアーマーなんだよ……あれ」
「そか。でも無茶すんなよ?」
「うん……」
ようやくメイベルが微笑んだ。
(世話の焼けるちびっ子だよな、まったく。隊長といいこいつといい)
と、コンラッドはただ一人苦笑するのであった。
一方のジルベルトはというと、訓練弾を持って、
一人で的を作ってから射撃訓練をこっそりとやっていた。
だんっ! だんっ! だんっ!
相変わらず一発としてまったく的に命中しない。
才能の無さを存分に発揮していると言ってもいいだろう。
そこに静かにエイリアがトイレに行くため通りがかった。
ジルベルトに関しては、遠目に見るだけではあるが。
「…………今度の隊長は随分と諦めが悪いな…………」
それだけ言うと、エイリアはトイレに向かって歩くのであった。
それはさておき、勇者軍主力部隊の特訓が、今アイリーン・マフィアにて
始まろうとしていたのであった――
第六章−第三幕− 堂々たる獅子の心臓
先のブレインフォックスとの戦闘において、
発信機を付ける事に成功した勇者軍主力部隊は、
そのままこっそりとその後を追跡していくうちに、
アイリーン・マフィア本部基地に程近い位置に何故か建っていた、
大掛かりな研究施設らしきものを発見した。
マフィア本部基地から三キロメートルと離れていない位置にありながら
アイリーン・マフィア構成員が気付かなかったのも、
密林区域にひっそりと建造されていたからであろう。
「あはは。こりゃまたデカい基地ですねー」
と、暢気に笑うリゼル。見張りが立っているのにお構いなしだ。
「ちょっちょっ、気付かれるって!」
慌ててシエルが制止にかかるが、既に遅かった。
「こんにちは〜」
のんびりした口調で、見張り兵の前に堂々と出てくるリゼル。
「おい、小僧。ここは立ち入り禁止区域だ。どっから迷い込んだ?」
「いやぁ、どっかで道を間違ったっぽくて。この林を出る道知りません?」
見張り兵の詰問口調にも平然と対応する。
「そうか。じゃああっちだ。いいから行った行った、ほれ――」
そこまで言った途端、見張り兵がその場でくず折れた。
「なっ……!?」
見張り兵(二人目)が驚いて臨戦態勢に入ろうとするが、
その前にリゼルが素早く動き、どうやら杖で叩き伏せた。
「変にこそこそするから警戒されるんですよ。ね?」
「確かに一理あるな」
と、参戦したてのテディがしたり顔で頷く。
と言いながら、正門ドアに何かの機材をリゼルが取り付ける。
(なにそれ?)
と、ジルベルトが興味深げに近寄る。
「どうせ門はIDか何かで管理されてるでしょうから、
この解析装置でちょちょいとハッキングしてしまいましょう」
「器用なんだねー」
と、レイリアも感心する。
ぷしゅっ。
ほどなくドアが開き、研究施設へのドアが開く。
中は意外なほどに広かった。スペースに無駄があるとも言えるが、
基本的に騎乗して動くユイナ姫とチトセにとっては
ありがたいとも言える状況だった。
工夫しなくても重機であるはずのビーム・カーテン改さえ余裕で入るだろう。
「あら……騎乗のまま人のお家にあがるだなんて、はしたないですね」
と、頬を赤らめて照れるユイナ姫だったがそれはどうでもいい。
「いや、今更それを言うのかい? しかも敵地だし」
とライナスは呆れ顔ではあるが。
しかし人の気配というものがあまり無い施設である。
機械類はやたらと稼動しており、何かを製造していたりするのだが、
今のところ見張り兵その一、その二以外の人間と接触していない。
今まで接触してきた敵部隊の方がよほど人数がいたぐらいである。
「だああッ! 何かねーのか、何か!」
と、テディがいらついて腕を振り回す。
その時だった。
ふぃーん、ふぃーん、ふぃーん!
警報らしき音が響き渡る。どうやら察知されたらしい。
「まあ当然でしょうね。監視カメラぐらいあるでしょうから」
と、リゼルはまるで他人事である。
「落ち着いてる場合かよ! 走るぞ!」
コンラッドの指示に従い、各員走り始めた。
防犯設備が稼動し始めたのか、砲座などが出てきて
時折勇者軍主力部隊を狙い撃ちし始めるが、
大半がリゼルの攻撃魔法と、レイリアの狙撃銃で沈黙。
ひどい時にはエイリアの鞭でもぎ取られたり、
ジークの斧で一撃粉砕されたりと、身も蓋も無い。
当然フラストレーションの溜まっていたテディ辺りも
ハンマーで嬉々として防犯設備を殴っていた。
「……私も何か攻撃魔法の一撃でもぶっ放す?」
あまりに出番が無いので、珍しく申し訳無さそうにシエルが申し出るが、
「大丈夫だ、シエルは私達を守る。
だから私がシエルを守ってやる。それでいいだろう?」
ジークの言葉に、珍しくシエルも素直に頷いた。
(『私達が』シエルを守ってやる、じゃないんだ……)
……よく分からないが、何となくシエルは嬉しかった。
そのままいくらかの区画を強引に突破したところで、
広大なフィールドへと躍り出る。一応は施設内のようだが、
そのまま野球でも出来そうなほどの広大な区画のようだ。
たくさんの重機が稼動しており、その中には
スプレッダー幼生体の死骸らしきものが鎮座していた。
「やっぱり、何かに利用していたのね……」
ソニアが苦虫を噛み潰したような顔で怒りを露にする。
「あなた達……なんでこんな所にいるの!?」
突然、予想もしない方向から女性の声。ブレインフォックスだ。
「見つけたぞ、ブレインフォックス!」
テディが攻撃を仕掛けようとするが、彼はその足を止めた。
見慣れないもう一人の幹部らしき人物がいたからだ。
「俺はテディ=カレン! お前は誰だ!!」
律儀な事に自己紹介をしてから名前を訊こうとするテディに、
白髪の初老にさしかかったその男――ただし素顔は覆面で見えない――は、
鼻で笑う仕草を見せた。
「カレン家の男児は随分と礼儀正しいようだな。ブレインフォックス?」
「そんな場合ではありません! 無茶をなさると御身が傷付きますよ!」
ブレインフォックスが初老の男を嗜める。
年齢的に前線に出るのは無茶だと思っているのだろう。
「よい。どうせいつかは会う運命にあるのだからな。
我が名は、といってもコードネームだが<ハートレオ>。
『ウィルスユーザーズ』は我が手によって、創設された。
人はそれをもって、リーダーと呼ぶ事もあるが、な」
ハートレオ。それが敵のリーダーなのか。
そして何故こんな所にのこのこ出てきたのか。
疑問の尽きぬ勇者軍ではあるが、臨戦態勢を取った。
「総員、出撃!」
ハートレオの指示に従い、総員、つまり基地内に存在するであろう
全ての戦闘要員が周囲の出入口から現れた。
「勇者軍は強敵だが、私個人にとって、敵とは言い難い存在でな。
なので丁重に痛めつけて、追い払いさえすればよい。いいな?」
「はっ!」
兵士一同が応じる。
しかし勇者軍の心中には疑問が増えるばかりであった。
敵ではない? という事は勇者軍の誰かの縁者なのだろうか?
しかし、勇者軍主力部隊の疑問は払われる事になった。
もちろん戦闘によって、である。
「総員、攻撃開始!」
ブレインフォックスの指示が飛ぶ。
戦闘は極めて迅速に行われた。
「疾風剣!」
特に最も敵兵を速く薙ぎ倒しているのはライナスだ。
自慢の剣速をもって、他の者の倍近いスピードで敵を減らしていく。
「分かってるよな、隊長! 殺すより無力化だ!」
(うん)
ジルベルトとコンラッドは、得意のリールによる攻撃をもって、
敵の武器を破壊、無力化する事に力を注ぐ。
「ウォーターブラスター!」
リゼルの広域魔法もかなりの敵を薙ぎ倒している。
瞬間撃退速度ではライナスの方が速いものの、
一度に撃退できる人数はリゼルの方が上である。
ジークとソニアは一番非力なシエルへのガードに徹し、
彼女に一切敵を近付けないのであった。
レイリアとエイリアも前線に踊り出て、
時には密着して、時には離れて敵を翻弄していた。
ユイナ姫はとにかく周囲を駆け回って敵を撹乱する。
「ブレインフォックス! 全てを白状してもらうぞ!」
テディはブレインフォックスに再度肉薄し、近距離戦闘を試みる。
ずだん、だん、だん!
「させない!」
ブレインフォックスが銃を連射し、テディを牽制、近付けさせない。
「くぅッ!」
予想より激しい銃撃に、今度はテディが距離とペースを取られた。
「うにゃーッ!」
敵の人数が多いあまりに、大福、きなこ、みたらし、黒ごまの
愛猫四匹まで暴れ出し、結果的にウィルスユーザーズ側に
多くの被害を出していたりする。
その隙間を縫うように、ユイナ姫とチトセのコンビが
ハートレオめがけて一直線に突撃をかける。
「あなたは一体、誰なのです!」
「ふっ……若い」
ハートレオは身を翻し、簡単にユイナ姫の攻撃を受け流す。
「なっ!?」
渾身の一撃だったが、あっけなく回避された。
ハートレオは突如として叫ぶ。
「エルトリオン!」
すると、どこからともなく一頭の馬が現れた。
どうやらエルトリオンというのは馬の名前らしい。
ハートレオは愛馬エルトリオンへと騎乗すると、大きな槍を構えた。
どうやらナイト――いや、パラディンとしての技能を有するらしい。
「ザン共和王国王政部筆頭のユイナ姫とお見受け致した。
いざ、尋常に勝負されたし、良いですな?」
「次期筆頭、です!」
ユイナ姫がその旨を訂正し、二人は刃を合わせる。
一方で雑魚の掃討戦はほぼ決着の様相を呈していた。
「ビーム・カーテン改、搬入急げ!」
コンラッドの指示によって、ビーム・カーテン改重機部隊により、
スプレッダー幼生体の死骸の除去作業が始まっていた。
「あの子達、勝手な事を!」
ブレインフォックスの銃がコンラッドやジルベルト達の方を向く。
「隙を見せるとは、愚かな!」
がきゃっ!
テディのハンマーがまたしても銃を破壊する。
「くっ!」
ブレインフォックスが予備として用意していたのであろう、
リボルバー銃二丁をもって、再度対応を開始し、
テディはそのことごとくをハンマーで防御する。
「ハートレオ殿! 私にはこれ以上の戦闘継続は困難です!
撤退しますが、御身にご自愛のほどを!!」
ブレインフォックスは素早く距離を取り、その場から引き上げた。
「待て!」
テディが追おうとするのを、ライナスが止める。
「君こそ待て! 今はスプレッダー幼生体の除去作業中だ!
大きく離れるとビーム・カーテン改を破壊される!」
「ちいッ! 仕方ないか!」
テディは追撃を諦めた。
一方のユイナ姫は、ハートレオとの激闘を繰り広げていた。
「ほう、ブレインフォックスを退けるか。見事なものだな」
「ブレインフォックスだけじゃありません。
アイズオウル、ハンドドッグ、レッグホース、ネイルキャット、
全て私達の戦力の前には抗することも敵いません。
いい加減に、あなたも諦めて降伏したらどうですか?」
「流石は勇者軍よな。屈服させ甲斐がある、というところか」
そこまで言うと、ハートレオは大技の準備をした。
「ブレイド・オブ・アイシクル!!」
氷の技。水の守護精霊を受けたユイナ姫には通用しない。
ユイナ姫自身もそう思い、防御が疎かになっていた。
ハートレオの槍をつらら状の氷が覆い、そのまま突撃。
バキン!!
氷などおまけにすぎない。その突進力だけで、
ユイナ姫の持つシールドの破壊には充分であった。
「あうッ!!?」
危うく落馬しそうになったが、愛馬チトセがステップを踏み、
何とかバランスを持ち直すに至った。
「ふむ。この奥技を受けて落馬せずに残るとは、いい馬に乗っておられる。
では、防衛対象のスプレッダー幼生体も除去されたようなので、
そろそろ我輩も失礼させていただくとしよう……エルトリオン、走れ」
未だふらついているユイナ姫を放置し、ハートレオは
ブレインフォックスと同じ脱出ルートから、後を追うように離脱した。
「大丈夫、ユイナ姫!?」
真っ先に駆けつけたのはソニアだった。
「ええ、正直、私の負けでした……油断が過ぎましたね」
と、ユイナ姫は苦笑いする。
「いいえ。私達の勝ち、よ。スプレッダー幼生体は除去したもの」
「ええ」
ソニアとユイナ姫はがっちりと握手した。
その後、主力部隊は基地内に残っていたスプレッダー幼生体のサンプルや
死骸などを残らず除去した。作戦は一応成功であるが、
完全勝利というにはあまりにも程遠い結果であった。
ブレインフォックスとて愚かではない。現に発信機は潰されていた。
「よっしゃ、まずは任務完了だ!」
コンラッドが笑うが、事態は気楽でもない。
スプレッダー成体にも、ハートレオにも、
作戦上勝利していても、戦闘面での敗北を喫している。
とならば、再訓練の必要があるのだろう。
それを痛感したジルベルトは、シエルに念を送る。
「この施設の解体を依頼するためにもアイリーン・マフィアへ急ごう、
ってお兄ちゃんが言ってるから、もたもたしてられないわよ」
「そうね。急ぎましょう」
と、エイリアも賛同する。
「ナンナさんの実家かぁ。あたし初めてなんだよねー」
と、何故か嬉しそうなレイリアをエイリアが無言で嗜める。
「急ごう。シエルさんの――もといジルベルト君の言う通り、
早急に実力を高める必要があるからね」
と、ライナスが締めて離脱行動へと移った。
紆余曲折あったものの、勇者軍主力部隊は
アイリーン・マフィア本部へと向かう事になる……
<第七章 へと続く>
発信機を付ける事に成功した勇者軍主力部隊は、
そのままこっそりとその後を追跡していくうちに、
アイリーン・マフィア本部基地に程近い位置に何故か建っていた、
大掛かりな研究施設らしきものを発見した。
マフィア本部基地から三キロメートルと離れていない位置にありながら
アイリーン・マフィア構成員が気付かなかったのも、
密林区域にひっそりと建造されていたからであろう。
「あはは。こりゃまたデカい基地ですねー」
と、暢気に笑うリゼル。見張りが立っているのにお構いなしだ。
「ちょっちょっ、気付かれるって!」
慌ててシエルが制止にかかるが、既に遅かった。
「こんにちは〜」
のんびりした口調で、見張り兵の前に堂々と出てくるリゼル。
「おい、小僧。ここは立ち入り禁止区域だ。どっから迷い込んだ?」
「いやぁ、どっかで道を間違ったっぽくて。この林を出る道知りません?」
見張り兵の詰問口調にも平然と対応する。
「そうか。じゃああっちだ。いいから行った行った、ほれ――」
そこまで言った途端、見張り兵がその場でくず折れた。
「なっ……!?」
見張り兵(二人目)が驚いて臨戦態勢に入ろうとするが、
その前にリゼルが素早く動き、どうやら杖で叩き伏せた。
「変にこそこそするから警戒されるんですよ。ね?」
「確かに一理あるな」
と、参戦したてのテディがしたり顔で頷く。
と言いながら、正門ドアに何かの機材をリゼルが取り付ける。
(なにそれ?)
と、ジルベルトが興味深げに近寄る。
「どうせ門はIDか何かで管理されてるでしょうから、
この解析装置でちょちょいとハッキングしてしまいましょう」
「器用なんだねー」
と、レイリアも感心する。
ぷしゅっ。
ほどなくドアが開き、研究施設へのドアが開く。
中は意外なほどに広かった。スペースに無駄があるとも言えるが、
基本的に騎乗して動くユイナ姫とチトセにとっては
ありがたいとも言える状況だった。
工夫しなくても重機であるはずのビーム・カーテン改さえ余裕で入るだろう。
「あら……騎乗のまま人のお家にあがるだなんて、はしたないですね」
と、頬を赤らめて照れるユイナ姫だったがそれはどうでもいい。
「いや、今更それを言うのかい? しかも敵地だし」
とライナスは呆れ顔ではあるが。
しかし人の気配というものがあまり無い施設である。
機械類はやたらと稼動しており、何かを製造していたりするのだが、
今のところ見張り兵その一、その二以外の人間と接触していない。
今まで接触してきた敵部隊の方がよほど人数がいたぐらいである。
「だああッ! 何かねーのか、何か!」
と、テディがいらついて腕を振り回す。
その時だった。
ふぃーん、ふぃーん、ふぃーん!
警報らしき音が響き渡る。どうやら察知されたらしい。
「まあ当然でしょうね。監視カメラぐらいあるでしょうから」
と、リゼルはまるで他人事である。
「落ち着いてる場合かよ! 走るぞ!」
コンラッドの指示に従い、各員走り始めた。
防犯設備が稼動し始めたのか、砲座などが出てきて
時折勇者軍主力部隊を狙い撃ちし始めるが、
大半がリゼルの攻撃魔法と、レイリアの狙撃銃で沈黙。
ひどい時にはエイリアの鞭でもぎ取られたり、
ジークの斧で一撃粉砕されたりと、身も蓋も無い。
当然フラストレーションの溜まっていたテディ辺りも
ハンマーで嬉々として防犯設備を殴っていた。
「……私も何か攻撃魔法の一撃でもぶっ放す?」
あまりに出番が無いので、珍しく申し訳無さそうにシエルが申し出るが、
「大丈夫だ、シエルは私達を守る。
だから私がシエルを守ってやる。それでいいだろう?」
ジークの言葉に、珍しくシエルも素直に頷いた。
(『私達が』シエルを守ってやる、じゃないんだ……)
……よく分からないが、何となくシエルは嬉しかった。
そのままいくらかの区画を強引に突破したところで、
広大なフィールドへと躍り出る。一応は施設内のようだが、
そのまま野球でも出来そうなほどの広大な区画のようだ。
たくさんの重機が稼動しており、その中には
スプレッダー幼生体の死骸らしきものが鎮座していた。
「やっぱり、何かに利用していたのね……」
ソニアが苦虫を噛み潰したような顔で怒りを露にする。
「あなた達……なんでこんな所にいるの!?」
突然、予想もしない方向から女性の声。ブレインフォックスだ。
「見つけたぞ、ブレインフォックス!」
テディが攻撃を仕掛けようとするが、彼はその足を止めた。
見慣れないもう一人の幹部らしき人物がいたからだ。
「俺はテディ=カレン! お前は誰だ!!」
律儀な事に自己紹介をしてから名前を訊こうとするテディに、
白髪の初老にさしかかったその男――ただし素顔は覆面で見えない――は、
鼻で笑う仕草を見せた。
「カレン家の男児は随分と礼儀正しいようだな。ブレインフォックス?」
「そんな場合ではありません! 無茶をなさると御身が傷付きますよ!」
ブレインフォックスが初老の男を嗜める。
年齢的に前線に出るのは無茶だと思っているのだろう。
「よい。どうせいつかは会う運命にあるのだからな。
我が名は、といってもコードネームだが<ハートレオ>。
『ウィルスユーザーズ』は我が手によって、創設された。
人はそれをもって、リーダーと呼ぶ事もあるが、な」
ハートレオ。それが敵のリーダーなのか。
そして何故こんな所にのこのこ出てきたのか。
疑問の尽きぬ勇者軍ではあるが、臨戦態勢を取った。
「総員、出撃!」
ハートレオの指示に従い、総員、つまり基地内に存在するであろう
全ての戦闘要員が周囲の出入口から現れた。
「勇者軍は強敵だが、私個人にとって、敵とは言い難い存在でな。
なので丁重に痛めつけて、追い払いさえすればよい。いいな?」
「はっ!」
兵士一同が応じる。
しかし勇者軍の心中には疑問が増えるばかりであった。
敵ではない? という事は勇者軍の誰かの縁者なのだろうか?
しかし、勇者軍主力部隊の疑問は払われる事になった。
もちろん戦闘によって、である。
「総員、攻撃開始!」
ブレインフォックスの指示が飛ぶ。
戦闘は極めて迅速に行われた。
「疾風剣!」
特に最も敵兵を速く薙ぎ倒しているのはライナスだ。
自慢の剣速をもって、他の者の倍近いスピードで敵を減らしていく。
「分かってるよな、隊長! 殺すより無力化だ!」
(うん)
ジルベルトとコンラッドは、得意のリールによる攻撃をもって、
敵の武器を破壊、無力化する事に力を注ぐ。
「ウォーターブラスター!」
リゼルの広域魔法もかなりの敵を薙ぎ倒している。
瞬間撃退速度ではライナスの方が速いものの、
一度に撃退できる人数はリゼルの方が上である。
ジークとソニアは一番非力なシエルへのガードに徹し、
彼女に一切敵を近付けないのであった。
レイリアとエイリアも前線に踊り出て、
時には密着して、時には離れて敵を翻弄していた。
ユイナ姫はとにかく周囲を駆け回って敵を撹乱する。
「ブレインフォックス! 全てを白状してもらうぞ!」
テディはブレインフォックスに再度肉薄し、近距離戦闘を試みる。
ずだん、だん、だん!
「させない!」
ブレインフォックスが銃を連射し、テディを牽制、近付けさせない。
「くぅッ!」
予想より激しい銃撃に、今度はテディが距離とペースを取られた。
「うにゃーッ!」
敵の人数が多いあまりに、大福、きなこ、みたらし、黒ごまの
愛猫四匹まで暴れ出し、結果的にウィルスユーザーズ側に
多くの被害を出していたりする。
その隙間を縫うように、ユイナ姫とチトセのコンビが
ハートレオめがけて一直線に突撃をかける。
「あなたは一体、誰なのです!」
「ふっ……若い」
ハートレオは身を翻し、簡単にユイナ姫の攻撃を受け流す。
「なっ!?」
渾身の一撃だったが、あっけなく回避された。
ハートレオは突如として叫ぶ。
「エルトリオン!」
すると、どこからともなく一頭の馬が現れた。
どうやらエルトリオンというのは馬の名前らしい。
ハートレオは愛馬エルトリオンへと騎乗すると、大きな槍を構えた。
どうやらナイト――いや、パラディンとしての技能を有するらしい。
「ザン共和王国王政部筆頭のユイナ姫とお見受け致した。
いざ、尋常に勝負されたし、良いですな?」
「次期筆頭、です!」
ユイナ姫がその旨を訂正し、二人は刃を合わせる。
一方で雑魚の掃討戦はほぼ決着の様相を呈していた。
「ビーム・カーテン改、搬入急げ!」
コンラッドの指示によって、ビーム・カーテン改重機部隊により、
スプレッダー幼生体の死骸の除去作業が始まっていた。
「あの子達、勝手な事を!」
ブレインフォックスの銃がコンラッドやジルベルト達の方を向く。
「隙を見せるとは、愚かな!」
がきゃっ!
テディのハンマーがまたしても銃を破壊する。
「くっ!」
ブレインフォックスが予備として用意していたのであろう、
リボルバー銃二丁をもって、再度対応を開始し、
テディはそのことごとくをハンマーで防御する。
「ハートレオ殿! 私にはこれ以上の戦闘継続は困難です!
撤退しますが、御身にご自愛のほどを!!」
ブレインフォックスは素早く距離を取り、その場から引き上げた。
「待て!」
テディが追おうとするのを、ライナスが止める。
「君こそ待て! 今はスプレッダー幼生体の除去作業中だ!
大きく離れるとビーム・カーテン改を破壊される!」
「ちいッ! 仕方ないか!」
テディは追撃を諦めた。
一方のユイナ姫は、ハートレオとの激闘を繰り広げていた。
「ほう、ブレインフォックスを退けるか。見事なものだな」
「ブレインフォックスだけじゃありません。
アイズオウル、ハンドドッグ、レッグホース、ネイルキャット、
全て私達の戦力の前には抗することも敵いません。
いい加減に、あなたも諦めて降伏したらどうですか?」
「流石は勇者軍よな。屈服させ甲斐がある、というところか」
そこまで言うと、ハートレオは大技の準備をした。
「ブレイド・オブ・アイシクル!!」
氷の技。水の守護精霊を受けたユイナ姫には通用しない。
ユイナ姫自身もそう思い、防御が疎かになっていた。
ハートレオの槍をつらら状の氷が覆い、そのまま突撃。
バキン!!
氷などおまけにすぎない。その突進力だけで、
ユイナ姫の持つシールドの破壊には充分であった。
「あうッ!!?」
危うく落馬しそうになったが、愛馬チトセがステップを踏み、
何とかバランスを持ち直すに至った。
「ふむ。この奥技を受けて落馬せずに残るとは、いい馬に乗っておられる。
では、防衛対象のスプレッダー幼生体も除去されたようなので、
そろそろ我輩も失礼させていただくとしよう……エルトリオン、走れ」
未だふらついているユイナ姫を放置し、ハートレオは
ブレインフォックスと同じ脱出ルートから、後を追うように離脱した。
「大丈夫、ユイナ姫!?」
真っ先に駆けつけたのはソニアだった。
「ええ、正直、私の負けでした……油断が過ぎましたね」
と、ユイナ姫は苦笑いする。
「いいえ。私達の勝ち、よ。スプレッダー幼生体は除去したもの」
「ええ」
ソニアとユイナ姫はがっちりと握手した。
その後、主力部隊は基地内に残っていたスプレッダー幼生体のサンプルや
死骸などを残らず除去した。作戦は一応成功であるが、
完全勝利というにはあまりにも程遠い結果であった。
ブレインフォックスとて愚かではない。現に発信機は潰されていた。
「よっしゃ、まずは任務完了だ!」
コンラッドが笑うが、事態は気楽でもない。
スプレッダー成体にも、ハートレオにも、
作戦上勝利していても、戦闘面での敗北を喫している。
とならば、再訓練の必要があるのだろう。
それを痛感したジルベルトは、シエルに念を送る。
「この施設の解体を依頼するためにもアイリーン・マフィアへ急ごう、
ってお兄ちゃんが言ってるから、もたもたしてられないわよ」
「そうね。急ぎましょう」
と、エイリアも賛同する。
「ナンナさんの実家かぁ。あたし初めてなんだよねー」
と、何故か嬉しそうなレイリアをエイリアが無言で嗜める。
「急ごう。シエルさんの――もといジルベルト君の言う通り、
早急に実力を高める必要があるからね」
と、ライナスが締めて離脱行動へと移った。
紆余曲折あったものの、勇者軍主力部隊は
アイリーン・マフィア本部へと向かう事になる……
<第七章 へと続く>
キャラ紹介 リゼル
研究部所属のサブメンバー、リゼル=ジョルダのキャラ紹介。
もたもたしてると本当に機会が無くなる……
<リゼル=ジョルダ准尉>
・劇中登場時点で14歳。
・男性。身長167cm、体重50kg。青髪。
・個人/兵種スキルは二刀流、チューニング(E2的解釈による)。
・使用武器は杖、棒。クラスはマージファイター。
・主要属性は殴。守護精霊は風。
・ハリエットの息子。
・シルヴィアと絡むようになったのは研究畑同士のため。
なんとなくシルヴィアの言動などを面白いと感じている。
・本編ではシルヴィアより先に参戦しているが、
研究能力ではシルヴィアに勝てないから、という
密かな劣等感のようなものも抱えている。
・一人称は「僕」。のんびりゆったりな発言が多い。
・トラブルに対して日和見になる傾向が多く、
部隊内の喧嘩なども遠くで見て楽しんだりするタイプ。
・しかし人一倍プライドが高く、自らや、関わりの深い者を
侮辱されると人が変わったように激怒するらしい。
・魔力も高いが、身体が非常に柔軟に動く。しかしやはり本職は魔法職。
・ファミリア製造技術も母より受け継いでいるが、まだ役に立った事がない。
・ひっそりと花粉症が弱点だそうである。
・ちなみに好物はナシゴレン。
さあ、彼の体術に活躍の場はあるのか!? 非常に疑問です。
では、次回はテディです。
もたもたしてると本当に機会が無くなる……
<リゼル=ジョルダ准尉>
・劇中登場時点で14歳。
・男性。身長167cm、体重50kg。青髪。
・個人/兵種スキルは二刀流、チューニング(E2的解釈による)。
・使用武器は杖、棒。クラスはマージファイター。
・主要属性は殴。守護精霊は風。
・ハリエットの息子。
・シルヴィアと絡むようになったのは研究畑同士のため。
なんとなくシルヴィアの言動などを面白いと感じている。
・本編ではシルヴィアより先に参戦しているが、
研究能力ではシルヴィアに勝てないから、という
密かな劣等感のようなものも抱えている。
・一人称は「僕」。のんびりゆったりな発言が多い。
・トラブルに対して日和見になる傾向が多く、
部隊内の喧嘩なども遠くで見て楽しんだりするタイプ。
・しかし人一倍プライドが高く、自らや、関わりの深い者を
侮辱されると人が変わったように激怒するらしい。
・魔力も高いが、身体が非常に柔軟に動く。しかしやはり本職は魔法職。
・ファミリア製造技術も母より受け継いでいるが、まだ役に立った事がない。
・ひっそりと花粉症が弱点だそうである。
・ちなみに好物はナシゴレン。
さあ、彼の体術に活躍の場はあるのか!? 非常に疑問です。
では、次回はテディです。



